「リウマチと生物学的製剤」
2009年1月31日
みどり病院 内科 稲波
宏
関節リウマチの治療
20世紀末から21世紀はじめはこれまで治療不可能とみなされてきた関節リウマチが、生物学的製剤の開発普及に伴い、治癒可能な疾患となってきました。これまでの治療は合成化学物質による治療であるため、副作用は多く、効果は限定的というものでした。代表的な合成DMARDs(disease-
modifying antirheumatic
drugs:疾患修飾性薬剤)であるメソトレキサート(MTX)は、確かに容量依存的に効果は増大しますが、一方で重篤な副作用が600人に1人発生しており、発売以来200人を超える患者さんがメソトレキサートによる薬の副作用で死亡しています。社会問題にならないのが不思議なくらいですが・・・。
また、頻繁にわが国で用いられているリマチル(ブシラミン)という合成DMARDsはブシラミン腎症、間質性肺炎をよく引き起こすためとても使用しにくい薬剤で、私どもの施設では使用しておりません。
安全で効果の高い治療こそ、患者さんが望むものです。生物学製剤にはこうした致死的な副作用はなく、治療効果も高く、日常診療には理想的な薬です。
レミケード、エンブレル、アクテムラ、ヒュミラ等を総称して生物学的DMARDsと呼ぶことが一般的になってきています。
生物学的製剤は体の中の炎症を引き起こす物質を特定して制御することが出来るため、副作用は今までの薬と比べて大幅に減少しています。現在市販されている生物学的製剤が制御の対象としている炎症性サイトカインは、腫瘍壊死因子(TNF)とインターロイキン6です。これらは、高い抗リウマチ作用と、安全性が認められています。
4つの生物学的DMARDs
2003年からレミケード、続いてエンブレル、アクテムラ、ヒュミラが発売されてきました。現在これらの全てが、日常診療で使用可能です。
それぞれの特徴を以下に列挙します。
- レミケードとヒュミラはTNF阻害剤であり、長期投与の効果も優れています。結核の発症と関係があり、潜在的な結核患者さんの除外が必要です。
- エンブレルはTNF中和を目的としており同じTNF阻害剤でも前2者と作用機序が違います。このため、潜在的結核症を顕在化させません。週2回の皮下投与により高い抗リウマチ作用を有しています。これらはメソトレキサートと併用し使用されることが多く60%を超える患者さんが満足な結果を得ています。
- アクテムラはインターロイキン6という炎症性サイトカインのレセプターを中和することにより抗リウマチ作用を発現させるもので、月1回点滴で投与されます。単剤でも抗リウマチ効果が高く、9割の患者さんは満足される驚異的な生物学的製剤です。MTX(リウマトレックス)の併用は要りません。TNF阻害剤と比較して、欠点は、効果発現までに時間がかかることが多く、50日前後かかります。大体3回目の投与後はほぼ全例の患者さんで有効となります。
どれを最初に使うかは、患者さんの生活スタイル、結核感染の可能性、慢性心不全の有無、関節リウマチ以外の膠原病の要素がどの程度あるかで使い分けることになるかと思います。
もっと気楽に生物学的製剤の使用を
レミケードとエンブレルはどこの医療機関でも使用可能となりましたが、生物学的製剤が患者さんの手許になかなか届いていないという状況があることです。私は何とかこれを打開したいと考えてきました。そのために、昨年(2008年)11月22日に、一般市民を対象にリウマチ講演会(於:明石市)を開催しました。多くの患者さんに来ていただきました。この地域における生物学的製剤への理解が多少なりとも深まったと思っています。
事情が許す限り、生物学的製剤を第一選択の抗リウマチ薬とすべきです。関節炎が軽、中程度の方であっても生物学的製剤を超早期から使用する方が、これまでの治療を漫然と続けるよりもはるかに安全であると私は考えています。
生物学的製剤の使用を阻むもの
患者さん側の問題として、生物学的製剤は怖いという感情があり、これは製薬メーカーや医師側の啓蒙不足にあると考えられます。
生物学的製剤の使用出来なかった時代の治療はステロイド中心の治療であり、MTX(リウマトレックス)を恐る恐る使うという程度の治療でした。70歳以上の方の腎機能は低下しており、MTX(リウマトレックス)は2ヶ月で効果が出て関節痛が消失するかもしれませんが、汎血球減少症のため命の危険にさらされることが、稀ならず起きています。
ステロイド骨粗鬆症により多くの関節リウマチの方が腰椎胸椎圧迫骨折で寝たきりとなりました。これまでの治療のほうがはるかに危険であったわけです。
しかし、生物学的製剤の普及を阻む最大の問題は、実は高額であるということです。小泉政権下の総医療費抑制政策のため高額医療の最低額が引き上げられてしまい、多くの患者さんはこの治療にアクセス出来なくなってしまいました。
30代、40代の、若くて働き盛りの人や、子育て中の人が関節リウマチにかかった時は、どうしたらいいのでしょうか?一番安いエンブレルを例にとってみると、3割負担で月4万円の出費となります。今の日本でこの治療を気軽に受けられる人は少数です。国家の補助が欠かせません。
さらなる生物学的製剤の開発発展を
これまで述べてきた生物学的製剤は膠原病治療に大きな変革をもたらしました。もう身体障害者にならなくて済む治療法が確立されてきたわけですが、それでも効果不十分なケースを見ます。さらに、全身性エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、シェーグレン症候群、ANCA関連血管炎などの様々な自己免疫性の難病が私たちの家族や友人を苦しめています。生物学的製剤は分子生物学、免疫学の発展の成果の上に花開きました。しかし、これらの薬剤は難病で苦しんでいる全ての患者さんの症状改善に有効であるわけではありません。
新たなサイトカインを目標とした様々な治療法が日々開発されています。今最も期待されているのがインターロイキン17の拮抗薬です。近いうちにこれら難病の克服が達成される可能性があるでしょう。







